カレーライス


カレーライスを
ひとにめがけて
ぶっつけたことがある。
一瞬
泣きそうな顔をみせて
そんひとは
皿を拾い
ごはん粒を拾い


ごはん粒を拾い
胸のカレーを拭いた。


こするほどに黄色い染みがひろがって
食べ汚した幼な子のようだった
それから
ゆっくりと
トレーナーを脱ぎ


トレーナーを脱ぎ
裏返して
それを また
すっぽりと着たのだった。


記憶が匂いを放つので
カレーライスの日は
あの夜
私を送る電車の中で
「匂うね」
と 笑ったひとを思い出す。


ひょいと
トレーナーを裏返せば
何もなかったのも同じ。
くらしとは
そのように
許すことなのだと
私にもわかった
いくつもの
いくつもの夕暮れの中で。